老後だけでなく年金はもらえるの?障害年金とは?

年金というと、老後の生活を支える「老齢年金」のイメージがありますが、現役世代でも、病気やけがなどで障害が生じたときには、「障害年金」が支給されるのを知っていますか?障害年金は、手足などの障害だけでなく、がんや糖尿病や脳卒中の後遺症や精神疾患などの病気で長期療養が必要な場合なども支給対象になります。つまり病気やけが、障害で生活を送ることや働くことに支障をきたすようになった人が、療養に専念できるよう生活を保障する年金です。対象者は基本20歳以上で65歳までとなります。

(1)障害年金は公的年金の1つ

公的年金には「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」の3種類があります。「老齢年金」は長生きに備えたもの、「遺族年金」は家族の死亡時に備えたもの、「障害年金」は障害状態になってしまったときに備えたものです。

まずは公的年金制度の仕組みについて説明します。公的年金制度は簡単に言うと2階建てになっています。自営業や学生、無職の場合は「第1号被保険者」、民間企業の会社員や公務員の場合「第2号被保険者」、民間企業の会社員や公務員の配偶者など第2号被保険者の扶養に入っている場合は、「第3号被保険者」となります。ずっと同じ区分の人もいれば、たとえば大学卒業までは第1号被保険者、卒業後就職し第2号被保険者になり、結婚して子どもが生まれ主婦となり夫の扶養に入ったという場合は第3号被保険者になる、と変わる場合もあります。

(2)障害者手帳と持っていないと障害年金は受け取れないの?

障害年金と障害者手帳は別の制度になっています。障害年金は「国(日本年金機構)」、障害者手帳は「自治体」と申請窓口も審査機関も異なります。そのため障害者手帳のある人でないと障害年金を受けられないというわけではありません。障害者手帳がなくても障害年金の申請はできますので、障害者手帳を持っていないことを心配する必要はありません。

(3)障害年金を受け取るための3つのハードル

障害年金を受け取るためには、以下の3つのハードルを越える必要があります。

①障害状態に該当していること(障害認定日要件)
②初めて診断された日に、国民年金または厚生年金に加入していること(初診日要件)
③保険料の未納がないこと(保険料納付要件)

①障害状態に該当していること(障害認定日要件)

初めて障害状態と診断された日から1年6ヶ月が経過して初めて認定されます(障害認定日)。1年6ヶ月の期間が必要な理由は、その病気やけがが一時的なものではなく、治療をしていても状態が良くならないことを確認するためです。障害年金の対象となる病気やけがは、手足の障害などの怪我や事故のほか、精神障害やがん、糖尿病などの怪我や事故以外のものも対象になります。なお病名がついたからといって障害年金を受けられるわけではありません。あくまでも治療をしていて状態が良くならないことが条件となります。なお足の切断などの場合は1年6ヶ月が経過しなくても認定されます。詳細は日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の全体版からご確認ください。なお診断書は、日常生活の様子を医者が把握していることが前提です。診断書に日常生活・職場で受けている具体的な援助を記入しないと受給できない場合もあります。障害年金に詳しい医療機関に受診することをおすすめします。

障害の程度は、日常生活や仕事においてどのくらい支障があるかがポイントになり、等級ごとに分かれていきます。等級は、障害の程度が重い方から「障害基礎年金(国民年金)」は1級と2級。「障害厚生年金」は1級から3級の3区分と、さらに障害手当金(一時金)があります。状態は障害等級表に定められています。障害等級というと、障害者手帳が思い浮かびますが、その等級とは異なります。障害の程度は以下の通り定められています。

<1級>
他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。身のまわりのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない人(または行うことを制限されている人)、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような人を指します。

<2級>
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。例えば、家庭内で軽食をつくる などの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない人(または行うことを制限されている人)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような人が2級に相当します。

<3級>
労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある人が3級に相当します。

<障害手当金>
「傷病が治ったもの」であって、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの。

②初めて診断された日に、国民年金または厚生年金に加入していること(初診日要件)

初診日とは、障害の原因となった怪我や事故、病気に関して、はじめて医療機関の診療を受けた日のことです。年金を受け取るためには、初診日に国民年金、厚生年金に加入していることが必要です。(20歳前の怪我や事故、病気は除く。)障害認定日は初診日を基準として決まります。また初診日に加入していた年金制度によって請求できる年金が変わります。

具体的には、会社員時代に発病し初診を受けた場合(①初診日)で1、2級に該当した場合は障害基礎年金+障害厚生年金が支給されますが、初診日より前に退職の場合(②初診日)で1、2級に該当した場合は障害基礎年金のみしか支給されません。仕事が忙しく受診する時間がない状況は多いと思いますが、支給額に大きな差が出ますので体調に異変を感じた場合は早めに受診することをおすすめします。なお厚生労働省は初診日のわずかな違いで支給額が大きく変わる問題に対して、厚生年金の加入期間が一定以上ある場合や、退職から短期間の場合は、初診日が国民年金加入時でも障害厚生年金の支給を認めるといった案を検討中です。とはいえ働いている間に受診することをおすすめします。

実は初診日を証明することができないと病状の診査さえも受けられません。初めから障害年金の仕組みが分かっていて受診するのであれば問題ありませんが、後から障害年金を受給したいとなった場合、初診日の証明が難しいケースがあります。病院のカルテは5年間保存すればよいことに法律でなっているため、5年経過するとカルテが残っていない場合があります。他には医療機関が廃業してしまったなどです。その場合は、下記で証明することができます。

・初診日の記載のある「紹介状」、「診察券」、保険会社に提出した「診断書」、「お薬手帳」、「交通事故証明書」等
・2番目以降の受診先のカルテに記載されている、初診日の日付や受診先について本人が話したページ
・当時の状況を知っている近所の人、職場の人、いとこなど第三者(三親等以内の親族以外)に「第三者証明」により証明してもらう(証明としては弱い)

重要なことは、病状にかかわらず病院に受診した際は証明できるものをきちんと保管しておくことです。

③保険料の未納がないこと(保険料納付要件)

保険料納付の義務のある20歳以上の場合は、初診日前に年金の未納がなかったか厳しく問われます。下記の2つのいずれかをクリアしていれば問題ありません。

・【全加入期間】初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの全加入期間のうち、3分の2以上の期間、納付済、免除、猶予されている
・【直近1年間】初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない

初診日以降に保険料の納付や免除申請をしても、条件をクリアしたことにはなりません。あくまでも初診日の前日における納付状況によって判定されます。体調に異変を感じて初めて受診する際は、年金の加入状況を確認し、未納の場合は納付するか免除の手続きを取ってから受診することをおすすめします。

(4)いくらぐらい受けられるの?

①初診時に国民年金加入の場合

【2級 子どもなし】
77万7,800円(年、月約6万円)

【1級 中学生の子ども1人】
97万2,250円+22万3,800円=119万6,050円(年、月約10万円)

②初診時に厚生年金加入の場合

障害厚生年金額は、その方の年収や納付期間などにより変わります。その額を算出するための「報酬比例の年金額」は、ねんきん定期便で確認出来ます。

日本年金機構のHPから引用

図の黄色①はこれまでの一般厚生年金加入期間です。公務員・私学共済も同様に見ます。障害厚生年金を計算するときは、①の期間が300ヶ月ない場合は、300ヶ月あるとして計算されます。これは働き出して年月のたっていない人のためです。また3級には最低保証額58万3,400円が設定されています。これはパート、アルバイトで働いている人のためです。

【3級 加入期間12ヶ月】

②の金額/①の月数×300=支給額(年)

【2級 加入期間280ヶ月 配偶者なし子どもなし】

(②の金額/①の月数×300)+(77万7,800円)=支給額(年)
   障害厚生年金      障害基礎年金

【1級 加入期間302ヶ月 配偶者あり高校生の子ども1人】

(②の金額/①の月数×302×1.25+22万3,800円)+(97万2,250円+22万3,800円)=支給額(年)
        障害厚生年金              障害基礎年金

※金額はあくまでも目安です。実際の支給額については、年金事務所・各共済組合へお尋ねください。

(5)まとめ

病気やけがなどで障害が残ることは誰にでも起こりうる可能性があります。万が一障害が残ったとしても障害年金を受給することができます。受給するために重要なことは以下となります。

・けがをしたり病気になる、又は体調が悪いと感じた場合は早めに障害年金に詳しい医療機関に受診する
・受診する前に年金の納付状況を確認しておく
・受診した場合は証明できるものを保管しておく
・定期的に医療機関に通い治療を続ける

集める証明書類が多い、初診日の証明が困難、裁判を見越している場合などは社会保険労務士などの専門家に依頼することをおすすめします。自分で一旦申請してダメだったから専門家に依頼するとなると、前回の書類がネックとなり最新性が難しくなるケースもあります。チャンスをロスしないためにも専門家に依頼しましょう。